「今日は潜らない」をどう決める?マーメイドスイムの中止判断

LAB NOTES SAFETY

「今日は潜らない」をどう決める?

How to Decide When Not to Dive

「まだ動ける」と
「安全に活動できる」は同じではない。
入らない・ここで終わる判断を言葉にする。

#安全・技術・トレーニング #中止判断 #水中安全
QUICK DEFINITION

30秒でわかる

  • 発熱、強い鼻づまり、普段どおり動けない体調なら、入水前に中止する。
  • 顔面の痛み、圧平衡の問題、鼻血、強い寒さ、吐き気や嘔吐は、活動を止めて状態を確認するサイン。
  • 本人の「まだいける」だけでなく、バディから見える色、震え、動き、受け答えも判断材料にする。
  • バディの片方が不調なら、水面待機を続けさせず活動計画そのものを変更する。
  • 中止は失敗ではなく、事故になる前に使う安全技術。
01
WHAT IS IT?

「潜れる」と「安全に潜れる」は違う

予約した施設、遠征費、撮影の予定、待っているバディ。「せっかくここまで来たのだから」と思うほど、中止を決めるのは難しくなります。

しかし、潜れるかどうかと、安全に潜れる条件がそろっているかは別の問題です。この記事では、Vanessaが実際に中止した経験と潜水安全に関する一般情報を分けながら、マーメイドスイムで「今日は潜らない」「ここで終わる」をどう決めるか整理します。

水へ入る、息を止める、数メートル潜る。技術的にその動作ができても、発熱、鼻づまり、強い疲労、寒さ、吐き気などがあれば、安全に戻る余力や判断力まで普段どおりとは限りません。

潜れるか

いま一回の動作を実行できそうか。

安全に潜れるか

体調、環境、監督、バディ、退出手段、回復の余力までそろっているか。

「せっかく来た」「撮影が途中」「あと一回だけ」は、続けたい理由にはなっても、安全を保証する根拠にはなりません。費用や時間をすでに使ったことが判断を鈍らせる場合がありますが、そこで活動を続けても、使った費用や時間が戻るわけではありません。

IMPORTANT

判断の中心

安全とは、異常に耐え続けることではなく、異常が小さいうちに止めることです。

02
BEFORE ENTERING

入水前に「今日は潜らない」と決める条件

DANは、急性疾患や鼻づまりがある場合、通常の強さと持久力へ戻っていない場合には潜水を延期するよう案内しています。発熱、疲労、嘔吐、脱水などが残る間も潜水は勧められていません。これらは主にスクーバダイビング向けの資料ですが、水中で自力の呼吸ができず、判断と身体能力が必要なマーメイドスイムでも、安全側へ判断する根拠になります。

体調

  • 発熱している
  • 普段どおり運動できない
  • 強い疲労や脱水が疑われる
  • 吐き気や船酔いが始まっている

鼻・圧平衡

  • 鼻づまりがある
  • くしゃみ・鼻水が通常より強い
  • アレルギー症状が強い
  • 無理なく圧平衡できる自信がない

環境

  • 水温に対して保温装備が足りない
  • 休憩・保温場所がない
  • 波や流れに現在の体調で対応できない

運用

  • 監督・バディ体制が不明
  • 不調時の退出方法がない
  • 連絡方法や撤収条件を共有していない
VANESSA'S PRACTICE

Vanessaは発熱している日は、「入ろうと思えば入れる」状態でも入水しません。朝からくしゃみや鼻水が強い、鼻が詰まっている、圧平衡に不安がある場合も、入らないか、少なくとも潜水を伴う活動を実施できる状態か慎重に判断します。

03
PAIN AND NOSEBLEED

眉間の痛みのあと、大量の鼻血が出た日

VANESSA'S EXPERIENCE

冬の練習中、Vanessaは眉間付近に続く痛みを感じていました。その後、鼻の奥で「ぷしっ」と音がしたように感じ、詰まりが急に抜けた感覚がありました。本人は一瞬「通った」と思いましたが、直後に鼻の中へ温かさを感じ、触ると大量の鼻血が出ていたため、練習を中止しました。

寒さや乾燥も影響したのではないかと本人は考えていますが、原因は確定しておらず、医療機関で副鼻腔圧外傷と診断された経験として紹介するものではありません。

一般情報として確認できること

副鼻腔内の空気が周囲の圧力変化に追いつかないと、副鼻腔圧外傷が起こることがあります。DANは、鋭い顔面痛、頭痛、顔や鼻の詰まった感覚、鼻血などを報告される症状として挙げています。前額部、頬、目の奥などに痛みを感じる場合もあります。

ただし、眉間の痛みや鼻血には潜水以外の原因もあり、症状だけで診断はできません。痛みが続く、圧平衡ができない、出血するという段階で潜水を止め、状態を確認する必要があります。

IMPORTANT

「抜けて楽になった」=解決とは限りません

圧の変化や出血によって痛みが軽く感じられる可能性があります。急に楽になっても、出血、違和感、視覚や聴覚の異常、めまいなどがないか確認し、鼻血や強い痛みが出た日は安全側に判断して再入水を避けます。症状が続く、再発する、圧平衡の問題が残る場合は医療機関へ相談してください。

04
COLD WATER

「まだいける」と思っても、唇が青くなった日

VANESSA'S EXPERIENCE

低い水温で活動していたとき、Vanessa本人はまだ続けられると感じていました。しかし、周囲から見ても唇が明らかに青くなっていたため、活動を中止しました。唇の色だけで低体温症だったと診断することはできませんが、主観より先に外見上の変化が出ていたため、安全側に判断した例です。

水は空気より速く身体の熱を奪います。冷えが進むと、震え、疲労、手先の動かしにくさ、協調運動の低下、会話や判断の変化などが起こり得ます。本人が「まだ大丈夫」と感じていても、技の精度、意思決定、退出能力が落ち始めている可能性があります。

  • 唇や皮膚の色だけで診断せず、普段との明らかな違いとして扱う。
  • 震え、手先の動き、泳ぎの精度、受け答えをバディにも確認してもらう。
  • 水中で動けなくなるまで待たず、保温できる場所へ上がる。
  • 水温に合わせた保温装備、入水時間、休憩間隔を活動前に決める。

飼育生物を優先した水温の水槽では、人間にとって低温に感じられることがあります。それでも、演者が無制限に耐え続ける必要はありません。生き物の環境を変えられないなら、演者側の装備、演目時間、交代、休憩、退出条件を変える必要があります。

05
MOTION SICKNESS

水面待機が休憩になるとは限らない

VANESSA'S EXPERIENCE

海で気持ち悪さが出たとき、Vanessaは事前に「気持ち悪いかもしれない」と伝えていました。しかし、バディが潜っている間は水面で待機し、波によって症状が悪化。その後、耐えられなくなり嘔吐しました。

これは「吐いても続けた」という話ではなく、不調を申告した時点で、待機方法や活動計画を変える必要があったという振り返りです。

船酔い・波酔いでは、めまい、冷汗、吐き気、嘔吐などが起こり、動揺への曝露が続けば悪化することがあります。水面は波の影響を直接受けるため、具合の悪い人にとって必ずしも休憩場所ではありません。

嘔吐後は、疲労、脱水、注意力の低下も考慮します。水中での嘔吐は咳き込みや誤嚥につながるおそれがあるため、症状が強い状態で潜水を始めたり再開したりしません。酔い止めなどの薬は眠気その他の副作用を伴う場合があるため、潜水時の使用は自己判断で決めず、必要に応じて医師または薬剤師へ相談します。

BUDDY SAFETY

バディの片方が不調なら

不調者だけを水面へ残して活動を続けるのではなく、交代、全体の中止、船や陸への退出、スタッフへの連絡を実行します。

06
PLAN THE STOP

中止判断を、その場の気分だけに任せない

中止条件は、異変が起きてから交渉するより、活動前に共有したほうが実行しやすくなります。撮影やショーでは、本人以外にも判断に関わる人が多いため、次を確認します。

身体

今日の体調、鼻・圧平衡、疲労、寒さへの対応。

バディ、監督者、撮影者の役割と中止を決められる人。

退出

陸・船へ戻る方法、連絡手段、保温と休憩場所。

「本人が中止を申し出たら理由を問い詰めず止める」「バディのどちらかが異変を感じたらいったん全員上がる」「退出手段がなくなる前に終了する」といった運用を、開始前に言葉にしておきます。

07
SAFETY CULTURE

中止を申告しやすい運用を作る

「止めたい」「何かおかしい」という申告は、それだけで活動を止める理由になります。本人が症状を医学的に説明できるまで待つ必要はありません。

  • 中止を申し出た人へ、続行を説得したり謝罪を求めたりしない。
  • まず安全な場所へ移動し、保温、休憩、状態確認を行う。
  • バディや撮影者は、見えた変化を評価ではなく事実として伝える。
  • 必要なら施設スタッフや救急手順へつなぐ。
  • 後から、次回の装備・時間・退出計画へ反映する。

中止申告を受け入れにくいチームでは、異変が隠されやすくなります。早く言えたこと、早く止められたことを、安全行動として扱う文化が必要です。

08
DECISION CHECKLIST

Vanessaの中止判断チェックリスト

これは診断ツールではなく、入水・継続・再入水を安全側へ考えるための補助です。一つでも気になる項目があれば、いったん止めて確認します。

入水前

  • 発熱している
  • 強い鼻水・くしゃみ・鼻づまりがある
  • 圧平衡に不安がある
  • 強い疲労や普段と違う体調がある
  • 船酔い・吐き気が始まっている
  • 水温に対して保温条件が不足している
  • 退出方法や監督体制が不明

活動中

  • 顔面・眉間付近の痛みがある
  • 無理なく圧平衡できない
  • 鼻血が出た
  • 強い寒さ・震えがある
  • 唇や皮膚が普段と明らかに違う
  • 手先や泳ぎの動きが悪い
  • 吐き気・めまい・冷汗・嘔吐がある
  • 判断や会話が普段と違う
  • 本人またはバディが異変を感じる

再入水前

  • 症状が落ち着いたか確認した
  • 原因不明のまま再開しようとしていない
  • バディ・監督者が状態を確認した
  • 休憩・水分・保温が十分に取れた
  • 出血、強い痛み、嘔吐後など、安全側に当日終了すべき状態ではない
09
MERMAID LAB’S PERSPECTIVE

中止できた日は、何もできなかった日ではない

PRACTICAL INSIGHT

安全とは、異常に耐えることではありません。活動を続けたい気持ち、遠征費、撮影予定、相手への申し訳なさより、身体からの小さな異変を先に扱うことです。

中止できた日は、事故になる前に判断できた日。

「今日は潜らない」は、水中活動を諦める言葉ではなく、安全に長く続けるための技術です。

10
SAFETY

注意事項

本記事は、水中活動に関する一般的な安全情報と、Vanessa本人の経験・現在の運用を整理したものです。診断や治療、個別の潜水可否の判断を目的とするものではありません。

鼻出血、強い顔面痛、圧平衡の問題、呼吸症状、視覚・聴覚・意識の異常、症状の持続や再発がある場合は医療機関へ相談してください。潜水再開の可否は、症状や診断に応じて医師、必要に応じて潜水医学に詳しい専門家へ確認してください。

実際の活動では、施設、指導者、主催者の規則を優先し、緊急時は現場の救急手順に従ってください。

11
REFERENCES

主な確認資料

情報確認日:2026年7月28日
監修・実践例:Vanessa Diva(Mermaid Lab主宰)
編集:Mermaid Lab
医療監修:なし

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